2020.08.04
★お知らせ

熊本県南部豪雨災害から一か月

一級建築士|井上秀樹

球磨川の氾濫から一か月経った

 球磨川の氾濫から一か月。10年前に新築させて頂いたお施主様の家が床上浸水の被害に見舞われた。水だけならよかったが、泥水だったため、床下は汚泥が流入してしまい、一旦床を剥いで泥を撤去の上、清掃し、それから床を復旧と床の張替が必須となってしまった。さらに断熱材も泥水に浸されたため、これも取り替えることになった。


町並みは復活の兆しが見えてきた

 町並みは随分整備され交通の便も大きく改善された。しかし、いまだに通行不可の地域も残っている…。

 床下の清掃も消毒も済んで床下地、床仕上張りと工事が進捗している。元通りになるまでもう少しだ。ただ、今回の浸水、土台、柱などのメインフレームの材質、羊毛断熱材に助けられた部分が大いに存在する。まずはメインフレームとなる構造材が県産の杉、桧であったこと。この樹種はこの地域に生息しており、この地域特性に適した性質を持つ。ズバリ耐水性だ。特に雨に強い。雨の降る地域なので当然ではあるが…。水に濡れたところでどうということはない。乾けば元通りとなる。それがちまたの住宅と同じ乾燥地域の樹種では、水を含んだことにより、木材自体が柔らかくなり蟻の餌食となる。それが著しい強度低下を招くことになる。

 次に断熱材。羊毛断熱材は動物の毛である。濡れても自然に乾く。実際、腰板を撤去し断熱材を触ったところ、もう乾いていた。ただ泥水であったために、茶色く汚れていた。その部分だけ取り替えた。それだけで十分。ちなみに替えなくとも断熱性能の低下はなかっただろう。これもちまたの住宅と同じグラスウールだったとしよう。グラスウールは水に一部分でも濡れると毛細管現象により、水を吸い上げ全体的に濡れてしまう。しかも自力で乾く事はない。そのままにしておくと壁の中はカビの温床と化し、住人に健康被害をもたらす。

 実際に、新築してから1~2か月の家も被災しており、ちまたの住宅仕様であったために、大規模な修理もしくは建て替えを余儀なくされている家もある。


こんなものが流されてきた

 今回の球磨川の流量増加はとんでもなかった。上流川岸に組まれていたテトラポットが中流付近まで流されてきた。テトラポットというのはメーカーまたは商品名で正式名称は消波ブロックという。川の流れが早くなるところで川岸を侵食するのを防ぐために設けられていたのだろう。それが流されるとは…。消波ブロックというのはその名の通り、波を消すブロックである。波のエネルギーを分散させ小さな波とする形状となっている。エネルギーを分散させる形状のものが、しかも重量約20トンはあるであろう構造物が流れてくる。自然がもつ運動エネルギーの大きさは人知を超えている。


そもそも乾燥地域の自分で建てるキットハウス

 写真は乾燥地域の建物ツーバーフォー住宅。面で支えるから地震に強い。と聞いたことがあるだろう。そもそもツーバイフォー工法というのは、カナダ、北アメリカで流行ったキットハウス(プラモデル感覚で建てる家)である。一人で持ち運びできるようにツー(2インチ)バイ(×)フォー(4インチ)つまり5cm×10cmの材料で家を建てましょう。ということ。しかも乾燥地域の木なので水は含んでおらず軽量なのも施工のしやすさに一役買っている。施工方法は基礎、床、壁、屋根の順でパネルを建てていく。これを一人でやる。施工は自分、キット自体は家(箱)だけで300万円くらいだ。これがもともとのコンセプト。これを日本に輸入し、あたかも特殊工法であるかのように宣伝し、今の地位を確立した。確かに面で支えるので耐震性は高いと思う。しかし、壁のほとんどが耐力壁となるため、壁の配置には気を使う。壁配置のバランスが悪いと剛性の一番低いところに応力が集中しやすくなり建物へのダメージが大きくなりやすくなる。窓や出入口の配置の自由度が低くなるのも問題だ。ここ熊本においては日の入り、風の流れによって窓の配置を決める必要がある。そうでないと24時間空調に頼る家になってしまう。窓配置の自由度が低いというのはもはや致命的だ。

 特に一番の問題は乾燥地域のものであるがゆえ、水つまり雨にめっぽう弱い。熊本に限らず日本は雨が降る。そこに乾燥地域の建物はどうかと思う。しかも組立は屋根が最後。施行中、突然の雨に降られてブルーシートをてんてこ舞いで掛けているのをたまに見る。水に強い材料で建てれば、なにも慌てる必要がない。

 他にも乾燥地域の軽量木材を用いた木造住宅はいくつもある。ホワイトウッドという外材が有名かと。白くてきれいな木材とは紹介するが、雨に弱い。白アリが好んで食べる。ことは決して言わない。木は乾燥していなくてはならない。とか、雨漏れは大敵。とかは住宅メーカーが言い出したこと。かつて日本家屋の雨漏れは日常茶飯事だった。雨に濡れてもいい材料で造っていたので乾けば何の問題もなかった。それが外材を使用した住宅は今回のような水害では致命的な被害を受けることになる。住宅のフレームの木材にはこだわった方がいい。大部分のフレームを替えることになれば、建替以外の方法はないのだから…。