2020.06.17
家づくり

熊本県民なら畳は八代産!

一級建築士|井上秀樹

このタグは本物の証明書

 このタグは熊本県産い草を使用した畳表を証明するものだ。熊本県産といってもほとんどが私の地元、八代産だ。全国生産量80%のシェアを占めるダントツの一位だ。今の時期、農家は、いあげと言われる作業に追われている。成長したい草を刈り、直径約30センチ程度に束ね、台車に載せ乾燥小屋へと運ぶ。このいあげ作業は日が昇る前、午前4:00頃から午前10:00頃辺りまでが作業効率が伸びる。なぜなら、とてもハードな作業だから少しでも暑いとすぐバテてしまうのだ。ただでさえ重いのに雨にぬれたりでもすればい草一束30~40㎏となり、作業効率はさらに悪化する。それらを数十束台車に載せる。死ぬほどキツイ。

なぜ畳は熊本県産(八代産)なのか

 かつて、い草は広大な栽培面積をもつ八代のドル箱商品だった。い草農家はみなブルジョア揃いだった。それが、さらに稼ごうと思った一部の欲張りな者たちによって、その栽培技術をより広大な敷地を持つ中国へ持ち出した。それから数年後、スケールメリットを生かした八代産より安い中国畳が一気に押し寄せ、八代い草農家を危機的状況に追いやった。自分達で自分達の首を絞める形になった。技術はやたら持ち出すものではない。門外不出とすべきだ。長い期間の修行を経てはじめて暖簾分けという形で伝承するものだ。危機的状況の中、離農する人々も増えはしたが、それでもい草にこだわる農家も少数だが残った。中国産は価格は魅力だが、ただ品質は普及グレードまたはそれ以下だ。数年で畳を替えるような賃貸ならそれでいい。残った農家はそこに目を付け逆に高品質畳を少数つくることにした。戦う土俵を変えたのだ。数に物を言わせる多売戦略かブランド構築か。後者となったおかげで現在はいい畳が手に入るようになった

いい畳はここが違う

 いい畳はここが違う。八代産はい草の香りがする。い草の編み込み具合が密であり、簡単にはほどけない。目が詰まっている感じ。実際、子供が走り回っても擦り切れるようなことはない。ところが中国産はどうか。船で運搬される際、カビ防止のため防腐剤を振り掛けられ、い草の匂いなどはほとんどしない。また元気な子供が走り回ったりでもすれば、短期間で擦り切れる。そこを簡単に見分けられるように農家はこのタグを考えた。編み込むときこのタグも同時に編み込む。こうすることで取れはするが、あとで入れることはできない。よく考えたと思う。シールであったならば何とでもできそうだから。

 でも中国畳も悪いわけではない。年間棟数が多い住宅メーカー、集合住宅、アパート、マンション事業者にとっては、中国畳はとてもいい。なんせ八代産より畳一枚当たり1000円も安いのだ。最近和室が減って、家一棟当たりの畳枚数は減ってきている。大体4.5畳~6畳だ。6畳としても6000円原価が圧縮できる。それが年間100棟もあれば600000円も原価が圧縮できる。会社全体で見れば大きい額だが家を建てる側からすれば6000円の為に普及グレードかそれ以下の畳を入れられるのはなんとも。会社母体が大きくなるほど原価管理はシビアになる。原価は1円でも安く、お客からは1円でも多く、これが会社規模と比例しどんどん厳しくなる。それを証拠にSクラス全国大手の畳は大量生産コスト最安樹脂畳となっている。

 熊本八代の一戸建ては八代産い草でつくった畳が一番。生産量全国一位でありながら中国畳、樹脂畳なんぞ言語道断。こういうのを薦めるあたり施主に対する配慮が足りない。