2020.06.09
家づくり

メーカーの想い

一級建築士|井上秀樹

ネコ大好き炊飯器

 うちの扶養家族「柚子(ゆず)」。炊飯器のふたを閉め忘れるなど隙を見せると、すぐにこれを住処とし食事の準備を妨害する。言葉を発さないのでわからないが、多分窯の体へのフィット感がたまらないのだろう。いざ、これを強制退去させようものならゴールデンアイズからの睨み→ロックオン→ネコパンチ一連の流れで一蹴される。

最近流行りの高火力IH炊飯器

 最近、各家電メーカーの「米を美味しい状態で食べてほしいという想いの詰まったフラッグシップ高級圧力IH炊飯器」が出揃った。各社いろんな工夫を凝らしている。土鍋や蒸気レス、加熱方式等などの特徴はどうあれ、基本は圧力をかけ水の沸点を100℃以上に上げ米を高火力で一気に炊き上げることで米のうまみやコシを引き出す。まるで高火力かまどで炊いたかの様。どのメーカーの炊飯器が米をうまく炊けるかという点では多少の好みはあるとしても価格が高いものほど、うまく炊ける同じ米なら高級炊飯器で炊いたのか普及クラス炊飯器炊いたのか顕著にわかる「高い=いい製品」というわかりやすい図式が成り立つ。米は好みがあるため必ずしも「価格=うまい米」ということにはならない。土壌の良い産地が近くにある地産地消型の米は価格もこなれている割に美味。ブランド型の米はネームが先行している感が否めない。入手ルートが遠距離にあり入手までに時間がかかり鮮度が落ちた状態となるためか「こんなもんかな?」と疑問符がつくこともある。

住宅メーカーはどうか

 各メーカー「いい家に住んでほしい」と思っていると思いたい。ただ「いい家」の解釈に各社違いがある。環境にとっていい家、住む人にとっていい家、簡単施工で短時間で建ち大量生産で莫大な利益を生む会社にとっていい家など様々だ。本当にいい家かどうかは固定資産の評価額で簡単に知ることができる。ただわかったところで実際に家は建っているのでどうすることもできないが…。固定資産の評価額は契約金額ではなく構造や内外装の仕様で決まる。契約金額が高くても安物仕様ならば評価額は当然安い。建物だけなら固定資産税40坪くらいで木造なら4~5万くらいとなる。逆に契約金額が安い本物仕様の木の家ならば、同様の条件で12~15万は必要となる。なぜこんなことが起きるのか。家は大量生産には向かないということ。みな均一な商品を求めるのであれば、大量生産でコスト圧縮、販売価格も安くできる。家はそういうわけにはいかない。施主の希望、家族構成、土地の形状により建物は様々な形状になる。それで変わらないであろう最小部分を基準として標準価格を決める標準範囲を超えた部分はオプションとして追加金を計上する。それだけならいいが、住宅メーカーというものは会社を大きくしたい、莫大な利益を儲けたい、と思っている。年間の施工棟数を30棟50棟あわよくば100棟を目指すと着工棟数ばかりに目がいっている。棟数を増やすため、展示場建設、CM費投入、営業スタッフ増員など、どんどん経費がかさむことをする。家の価格は上げすぎるわけにはいかないので、建物原価を圧縮するため、とにかく本物の職人は人件費が高いので少し器用な方なら誰でも簡単に短期間で作れるように簡素化しできるだけ大量生産、建築原価を圧縮。契約金額の半分くらいで建物は建てないと会社は転覆する。家自体の価値はどんどん下がって行く。大体のメーカーさんは1棟決まった時点での契約コストは500万かかっているという。着工時で△500万。なにかとオプションで追加金が欲しくなること請け合いだ。流通している家電などとは違い「高い=いい製品」という図式は成り立たない。住宅メーカーは大半が「高い≠いい家」という図式となる。既存大手メーカーはまだしも、地震後急成長している体育会営業系メーカーが増えてきている。着工棟数はかなりの数だ。しかし家自体は中身のないものばかり。東証一部上場とか息巻いている住宅メーカーがそう。そんなことは建てる側にとってはどうでもいいこと。それよりもいい家をつくってほしいというのが本音だろう。バブル全盛の頃(H1~7)猫も杓子も住宅屋といって誰もが住宅産業に流れてきた。家のつくりはとても酷く、家づくりの想いなどそこにはなく愕然とするものばかり。その頃の住宅がちょうど25年を迎える。建替え需要が増えるかも知れない。そんな施工をしていた住宅メーカーは現在淘汰されていなくなった。そして新たな住宅メーカーに受け継がれる。需要を完全になくさないためにもこういう住宅メーカーは必要なのだろう。必要悪というやつだ